「20日間チャレンジ」「感染症」を見つめる(前編)

スクールライフ

新型コロナウイルス感染症の流行を受け、19世紀の小説家アルベール・カミュの著作である『ペスト』など、「感染症」を扱った作品に注目が集まっています。これを機会に、中高生の皆さん向けに今回はとある作品を取り上げ、「感染症」を取り巻く人間の「目」について一緒に考えたいと思います。

皆さんは『デカメロン』をご存知でしょうか。高校生はきっと聞き覚えがあるはずです。決して「大きなメロン」のことではありません。Decameronとは「十日尽くし」の意味。ルネサンス期の文筆家、ジョヴァンニ=ボッカチオ(Giovanni Boccaccio)による小説です。ボッカチオは今からおよそ700年前のイタリアのフィレンツェという都市に生まれ、フィレンツェ大使としてヨーロッパ各地を往来する多忙な生活の中で文学執筆にいそみました。この頃、ヨーロッパ各地に広まり、人々の生活に大きな影響を与えたのが、「ペスト」という感染症です。ペストは発病すると高熱を出し、最後は体中に黒い斑点が出来て死に至るため、「黒死病(black death)」と称されました。

『デカメロン』はこのペストが蔓延したフィレンツェを脱出した7人の貴婦人と3人の貴公子が、美しい森の館で10日間にわたって各々順繰りに10の話(つまり10日間で100話!)を披露するといったストーリーになっています。1つ1つ展開されるバラエティ豊かな話(大人向けの内容もあるので、中高生の皆さんはもう少し大きくなってから手に取ってみてください。)も当時の人々の世俗について知ることができる重要な史料なのですが、ことさらそのペストの描写は必読です。中学生には少し難しいかもしれませんが、見てみましょう。

(引用)

さて、神の子の降誕から歳月が1348年目に達した頃、イタリアの全ての都市の中で優れて最も美しい有名なフィレンツェの町に恐ろしい悪疫が流行しました。それは天体の影響に因るものか、或いは私どもの悪行のために神の正しい怒りが人間の上に罰として下されたものか、いずれにせよ、事の起こりは数年前東方諸国に始まって、無数の聖霊を滅ぼした後、休止することなく、次から次へと蔓延して、禍(わざわ)いなことには、西方の国へも伝染してきたものでございました。

 それに対しては、あらゆる人間の知恵や見通しも役立たず、そのために指命された役人たちが町から多くの汚物を掃除したり、全ての病人の町に入るのを禁止したり、保健のため各種の予防法が講じられたりいたしましても、或いは、信心深い人たちが恭々しく幾度も神に祈りを捧げても、行列を作ったり何かして、色々手段が尽くされても、少しも役に立たず、上述の春も初めごろになりますと、この疫病は不思議な徴候で恐ろしく猖獗(しょうけつ、悪い物事がはびこり、猛威をふるうこと)になってきました。

【ボッカチオ『デカメロン』(野上素一訳、岩波文庫 第1冊、1948年)】

当時の人々は、目の前の凄惨な状況を引き起こす感染症についてこのような気持ちを抱いていたのでした。

(後編へ続く)

担当:R.A.

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