3月2日(土)、風は冷たかったのですが、実に「卒業式日和」。本校で盛大に卒業式が挙行されました。かつて全校生徒が参列しての式でした。(施設の大きさもさることながら、全校生徒と卒業生の保護者が入るのに十分な人数であったのです)さすがにここ数年、コロナ対応も相まって保護者が入っての当日は全校生徒で卒業生を見送るわけにはいかず、前日の“予行”で全校生徒が一堂に会する最後の機会としています。式当日の「式辞」と予行の際に話したことを挙げさせていただきます。
式辞
華道家元がいけてくださったエントランスの桃の花がかわいらしく、そしてやさしく皆さんを迎え入れてくれました。卒業する皆さん、ご卒業おめでとうございます。
PTA会長 ●● 様・後援会会長 〇〇 様 同窓会長 □□様には公私ご多用のところ、ご臨席賜り誠にありがとうございます。そして、物心両面にわたるご協力・ご援助に対し、心より御礼申し上げます。
卒業する皆さん、新年一月一日、石川県能登半島で大きな地震がありました。大変な中で大学共通テストを受験した仲間たちがたくさんいたようです。加えて新型コロナ・インフルエンザの流行の中で、皆さんはこの日・この場を迎えることができました。だから、皆さん。今日この日を迎えられたことに改めて感謝してください。被災した高校生たちのことを「自分事」として考えるなら、感謝の気持ちが湧いてくるものと思うのです。そのうえで、皆さんの高校生活最後の一日、本日この一日を晴れやかな気持ちで送ってほしい。私はそのような思いでいっぱいです。
さて、いきなりですが皆さん、今日の式辞は、皆さんへの「質問」からにします。
「あなたにとって、命(いのち)の次に大事なことは何ですか?」どんな答えでもどんな答え方でもよいです。さあ、君、どう答えますか?
私は、自分の「命(いのち)が一番大事」だと思います。しかし、質問は「命の次に大事なこと」です。先日、私は、そのことを「テーマ」に掲げた本を読みました。
『「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた 命の次に大事なこと』 著者は村田慎二郎さん、2020年コロナの真っただ中で、全世界的なメンバーのいる「国境なき医師団」の日本人初の事務局長になりました。2012年から10年間、シリア・南スーダン・イエメン等の紛争地で、物資の輸送や水の確保などの現地での医療活動を支えてきた村田さんは、大学を出て外資系のIT企業に就職したものの、「世界の現実を自分の目で見てみたい」と考え、「国境なき医師団」をめざしました。しかし、英語力が0(ゼロ)、2度試験に落ち、3度目の正直で入団したのです。
ところで、皆さんは、テレビ等で「ウクライナでの戦争」の様子やイスラエルとパレスチナの地域紛争を少なからず知っていますね。村田さんは、その“ガザ地区”などでイメージできる紛争地での活動の中で、命がいくつあっても足りないような危険な目に合いながらも、理不尽な扱いを受け、けがを負った人々を治療し生命や健康を守り抜く医師たちの活動を(それこそ)自身の命を懸けて支援してきました。そして「命の大事さ」を実感し「命の次に大事なこと」を探し当ててきたのです。そのことがこの本から多くを読み取れるのです。
卒業する皆さん、いうまでもなく「命の次に大事なこと」は、一人ひとり違います。その答えは“家族”かもしれない。“恋人”かもしれない。“お金”かもしれない。“生き方”そのものかもしれない。私は、その答えを、今、皆さんに求めているのではありません。なぜならその答えを見出すことには、村田さんのように時間と経験が必要だからです。私は、しかし皆さんにこの質問をした者として何か共通するヒントを伝えたいと思うのです。
改めて、皆さん。皆さんがこの4月から迎える次のステージでも、この問いをもち続けていくことが、真に充実したキャンパスライフにつながるのだと思っています。いや、卒業する皆さんだけでなく、多くの人にたぶんこの問いが「職業観」や「人生観」につながっていくと思うのです。村田さんは、命の次に大切なものは「命の使い方」だと言っています。そして、そのように考えると、矛盾した表現になるかもしれませんが、命を懸けて「命の次に大事なこと」を守ったり、獲得したりすることもあり得るのかもしれない、私は本を読みながらそう思いました。
そして、私は私なりにその答えを見出していました。(この場では言いませんよ)
村田さんはさらにさらに、「家もない。学校もない。でも命はある。誰が悪いのかわからない。ただ、傷跡だけが重なっていく。」そんな紛争地の人たちの様子を目の当たりにして、「日本のような国にいて“夢”を追いかけないのはモッタイナイ」と若者たちに言うのです。皆さんの18年間は、個人的な生育環境は様々であったにしても、この日本は大きな夢をもち、それをはぐくむことができるうらやましい国であるのです。
私も校長として、皆さんに「Ask yourself what I can do for others with all my soul.」といいたい。繰り返すようですが、「命の次に大事なことは何か」このことを新しいステージでの「学び」につなげていってほしい、心からそう思うのです。
改めまして、保護者の皆様、本日は誠におめでとうございます。小学校からの、十二年間におよぶ「児童・生徒の保護者」を終わることに、一抹の寂しさとともに、お嬢様以上の“感慨”をおもちなのではないでしょうか。そして、この四月からはここにいるお嬢様たち全員が法律上の「成人」となり、皆様は「保護者」でなくなるわけです。しかし、お嬢様たちが真に自立した女性になるには、大人としての皆様の支えがまだまだ必要であると思います。どうぞよろしくお願いいたします。そして、6年間・3年間、本校の取組に対して物心両面のご支援とご協力をいただきましたこと、改めて御礼申し上げます。ありがとうございました。
さて、卒業する皆さん、皆さんには、3年前の入学式で「Keep on Learning & enhance your well-being」ということばを掲げました。「well-being」ということばを紹介した最初の学年です。
何かに迷った時、それが自分の成長やそばにいる人の幸せに繋がると思うなら「苦しくつらい」方を選びなさい。「楽な」方を選ぶ人は、きっと後悔します。自身で正しいと思う何かを始めたらやり続けなさい。途中でやめようと思ったらちょっと待ちなさい。もしやめてしまったらあとで続けておけば良かった、と思うものです。そして他人からの信頼もなくなってしまうものです。努力とその継続の奥にある真の「well-being」を掴み取ってほしい。そう思います。
さあ、卒業生の皆さん。いよいよお別れです。皆さんは「正しい姿 明るい心」の建学の精神の中で自分らしさを育んできたことに私は敬意を表します。その自信と誇りをもって、次のステージで、自分らしく、凛とした女性として活躍してほしい、人生百年時代の社会の中で、それぞれの持ち場で社会に貢献してほしい、そう願っています。
卒業する皆さん、最後の最後に・・ちょっとやそっとじゃへこたれない、落ち込まない、たくましく生きるタフな女性になりましょう。そして、お互いがんばりましょう。若者の進もうとする道をいつまでも応援しています。以上で私の式辞といたします。
令和6年3月2日東京女子学院高等学校長 野 口 潔 人
「卒業式予行」に際しての話
皆さん、「全校生徒が一堂に会す」ということは、この予行が最後になります。卒業生だけではなく在校生を含めて、私から全校生徒への本年度最後の講話とします。少し話す時間をください。
本日この時間ふたつ話をします。
ひとつ目、私立学校は、中学も高校も、学校の教育活動の学校説明会に来た受験生に「ぜひ、本校に来てください」と特徴を一生懸命アピールしますね。私は、毎回本校のよいところを私なりにアピールしてきました。ここにいる皆さんは、少なからずそのアピールに答えて本校を選んでくれた。しかし、いくら私や先生方がいろいろなアピールをしたとしても、実は一番効力があるのは皆さん在校生の姿を受験生にみせることと実際の「進学率」だったり「進学先」を示せることなのですね。「国立・公立」、「早慶上理」、「GMARCH」「大東亜帝国」などという言い方で、受験業界等が「ランキング」を決めています。特に、そのような大学に何人合格したか、ということが本校への受験に大きく影響しているのです。
その意味では、それらの大学への進学率があがり、難関な進学先に合格していることはとても喜ばしいことです。明日卒業式を迎える3年生の皆さん、本当によく頑張りました。昨年の2学期初めから、「挑戦する気持ち」をもって進路を自ら切り開きました。全校生徒の前で皆さんの「挑戦」をたたえたいと思います。そして、今もって頑張っている生徒もいると聞いています。その生徒には「最後まで頑張れ」と伝えたい、そう思います。
さて、改めて皆さん!もうひとつの話をします。私が今日どうしても紹介したかった「ことば」があります。これです。(壇上で表示)「すべてはうまくいっている」…この言葉…どこかで見たことはありませんか?そう、体育館の壁に貼られているものです。R先生に確認したところ、確かに令和2年度に卒業した生徒がつくり掲げたのだそうです。先生には、なぜ「すべてはうまくいっている」のか等々、それ以上のこと聞きませんでしたが、思えばその時のバレー部は「強化クラブ」であるにもかかわらず、様々なことがあって6人のメンバーしかいませんでした。一人でもけがをすれば大会にさえ出場できなかったはずです。そのようななかで、このことばを掲げて練習していたわけです。私は、今現在の元気で明るく健気に練習している姿の原点はこのことばにあるのだろうと勝手に思ってしまいました。バレー部の皆さん、どんな風に思いますか?…はい、バレー部を通しての話はここまでです。
皆さん改めて「すべてはうまくいっている」について考えたい。皆さん、このことば、私は、究極の“前向き(ポジティブ)思考”のことばだと思うのです?「うまくいっている」のうしろに?(はてな)がついていないし、「うまくいっている」のは、「一部」ではなく「すべて」です。「すべてはうまくいっている」素敵なことば、これからの皆さんの将来に、とっておきのことばと思うのです。私は、このことばにまつわる何か書物やエピソードがないかと思い、探しました。
ありました。
この本です。沖縄に住む精神科医の越智啓子さんという方が、はせくらみゆきさんというアーティストと共に作った大人向けの絵本です。タイトルはまさに「すべてはうまくいっている!」エクスクラメーションマークまでついています。「はじめに」の一部を読みます。
みなさん、この絵本を手にとってくださってありがとう。 すてきなご縁があったのでしょうね (中略) すべてはうまくいっている! ちょっと、 声に出して言ってみてください。 すべてはうまくいっている! この言葉は、 宇宙のしくみをシンプルに、 力強く表現しています。 とてもパワフルな言霊です。 すべてはうまくいっている! そう感じたら、 毎日がそう思えてきます。 すべてはうまくいっている! これを口癖にできたら、 毎日がそうなってきます。 すべてはうまくいっている! この意味が深く理解できたら、 あなたは人生の達人です。 すべてはうまくいっている! …(中略) いま、生きていてくれて、 ありがとう。 そんなあなたに、この絵本を届けます。 |
皆さん、このことば、(バレー部の皆さんには申し訳ないのですが)バレー部の皆さんのものだけにするのはもったいない。皆さん一人ひとりが、これから生きていく中でちょっと憂鬱な気分にかられたり不安な思いになったりすることが必ずあると思います。そんな時、このことばを声に出して言ってみると、よりよい改善方法が生まれてくるかもしれない。本校で学ぶ皆さんは、「様々な力を、能力をもっているのですが、自信がもてない」「努力はしているけれど、どうも納得いかない」多くの人たちがそのような人たちです。なかには、ひとつの物事がうまくいかなかったことで、自分自身を含め、すべて否定してしまうような人を時々見かけます。そのような自分から、一歩前に踏み出し、苦しい場面を乗り越えることができるようになるために、もしこのことばが役に立つならそれはとてもよいことです。ネガティブに思い悩んでも、たぶんうまくいかない。「いやいや…、うまくいっているんだ。調子いいぞ!」と思うことの方が、実はよい結果がついてくる。皆さん、「すべてはうまくいっている」このことばを心に刻んでほしいです。
以上で、予行での校長からの話とします。