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教職員コラム 「イシアタマ」考

ここで取り上げる「イシアタマ」とは、医師特有の思考「医師アタマ」のことをさします。この言葉は、尾藤誠司氏らが医師としての経験をもとに、医者と患者がなぜすれ違うのかを考察した著書に端を発しています。

「医師アタマ」は、自然科学至上主義の影響で曖昧さを許さない思考回路です。自然科学としての医学は、個々の人間を均一な存在と考え、統計学的な資料として扱う傾向があります。この思考によって医学は大きな進歩をしてきました。また実際の医療現場では、医者によって判断が大きく変わらない状況をつくっています。つまり医者にとってなくてはならないものです。しかし「医師アタマ」の問題点について、尾藤氏は「医学的に正しいことは患者さんのためになっていると医者は思い込んでいるが、医学的に正しいことが必ずしも患者の幸福につながらない。」と表現しています。

人間は千差万別の価値観を持っています。一人の人間をとっても、価値観は常に一定ではなく、揺れ動く存在ですから、医学的に正しい治療であっても、必ずしも受け入れられないことはあるわけです。

日々診療に従事している身にとって、治療自体が上手くいっている場合であっても、時に生じる違和感の正体が見えたような気がしました。医師が「自分の医師としての思考は、一般の人とズレていることがある。」という認識を抱くことは、今後、より良い医療を目指す上でも大切なことだと思います。

また、尾藤氏は病院などでよく見かけるスローガン、「患者のための医療」や「患者の立場に立った医療」について、痛烈な批判をしています。「『患者のための医療』は思い上がりの医療 医師アタマ的な正義感に基づいて患者のためにしてあげる医療である。『患者の立場に立った医療』は勘違いの医療 医療者は患者の立場にはなれない。できるのは患者に寄り添い、声に耳を傾け、尊重し、お互いのことを理解しようと努める『患者とともに考える医療』である」と。

 土の下はどっしりと根をはりながらも、地上はしなやかに揺れる木々のように、専門職としての基礎を持ちながら、患者さんに共感し、尊重しあえる関係を築く「しなやかなイシアタマ」でありたいと思っております。

 

      学校法人東京女子学院 理事長 酒井 利幸

 

*東京女子学院では一年に3回「保護者会」を開いています。その都度「保護者会資料」をお配りします。12月は16ページに及ぶ冊子になりました。今号では、その冒頭に理事長による一文「『イシアタマ』考」を掲載しました。本学院の理事長は医師も務めております。よく「医者の業務は、教員の仕事と通うところがある」と口にされます。「医は仁術なり」を地で行く先生らしい一文です。生徒のための教育などという思い上がりは慎み、「生徒と共に考える教育」を貫きたいものです。

 

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